神経調節性低血圧症とその治療法

1997年1月改訂

神経調節性低血圧症ワーキンググループ、ジョンズ・ホプキンス病院


サイト:http://www.med.jhu.edu/peds/cfs.html
原題:General Information Neurally Mediated Hypotension and its Treatment
   Revised January 1997
著者:
Neurally Mediated Hypotension Working Group、Johns Hopkins Hospital



 この文書は神経調節性低血圧症に関する情報を提供するために作成されたものです。


●神経調節性低血圧症とは?

神経調節性低血圧症(Neurally Mediated Hypotension:NMH)は、卒倒反射(Fainting Reflex)、神経-心臓性失神(Neurocardiogenic Syncope)、 血圧低下性失神(Vaso-depressor Syncope)、血管-神経反射(Vaso-Vagal Reflex)、そして自律神経障害(Autonomic Dysfunction)という病名でも知られています。低血圧(Hypotention)、失神(Syncope)は、それぞれ血圧の低い状態(Low Blood Pressure)、卒倒(Fainting)に対する正式な医学用語にあたります。神経調節性低血圧症は、普段正常に機能している心臓と脳の間の反射作用の異常により生じることが分かっています。



●神経調節性低血圧症は、いつ現れるのでしょうか?

神経調節性低血圧症は、以下の状況に対する許容限の低い方に生じます。
○静かに立っている姿勢をある程度の時間行った後(列に並んでいたり、シャワ
 ーを浴びていたり、姿勢を正して座っているなどの場合)
○暑い場所にいた後(暑い夏の日、混み合った暑い部屋、熱い風呂やシャワーに
 入るなどの場合)
○運動をした直後
○感情的にストレスを感じる状況にいた後(血や残虐な場面を見たり、怖がった
 り不安がったりした場合)
○食べ物を消化するため血液が腸へ集まってしまうため、食後すぐに症状が現れ
 る場合もあります

誰もが血圧の低下(NMH)をもたらす血管-神経反射の活動に影響を受けています。しかし、遺伝的体質、食生活、性格的、精神的なもの、感染やアレルギーのような突発的な因子の影響を受け、人によってその許容範囲は異なります。NMHの症状は、症状を起こすのに十分なほどにこの反射が早く生じたときに生じます。



●直立姿勢とこれらの症状の間にはどのような関係があるのでしょうか?

通常、立っていると、血液は重力によって脚部に貯まります。そのため、起立直後には、心臓へ送られる血液量が低下し、それを補うために体内ではアドレナリン(エピネフリン)が生成されます。このアドレナリンの急激な増加は、脈拍を早め、心臓の鼓動を強める効果を持っています(例えば、恐怖を感じた時に誰もが経験したことのあるような状態になります)。この脈拍増加と強い心収縮は、血流量が少ないとき、生命維持に欠かせない器官(特に脳)に十分な量の血液を供給するために生じるものです。

神経調節性低血圧症に罹っている方では、心臓と脳の間に"思い違い"が生じます。心拍数を上げる必要がある時(血液を脳へ送り、失神を防ぐなど)、脳は脈拍を低下させ、腕や脚の毛細血管を膨張させるといった命令を出してしまいます。そして、血液を必要としている心臓などの血液循環の中心では、さらに血流量が少なくなってしまうため、十分な血液が脳に送られずに、目眩や失神を起こします。倒れ込むことにより、姿勢が横になり、重力による血液の滞留を解消し、心臓へより多くの血液を戻すことができるようになります。また、目眩や失神に続いて、疲労感や思考が多少ぼやけるなどの症状が多くの方に見られます。



●神経調節性低血圧症に罹るとどのような症状が生じるのでしょうか?

頻発する眩暈や失神がよく見られ、通常の活動後の疲労感は、強く長く続きます。この疲労感は、24〜72時間続き、日常生活の大きな妨げとなります。慢性疲労、筋肉痛(または線維筋痛症)、頭痛、そして精神的混乱などの神経調節性低血圧症の特徴的な症状はまた、失神をするほど症状が重くない方々にも認められています。精神的混乱は、集中することが難しくなる、労働を続けることが難しくなる、注意を払うことが難しくなる、適切な言葉を探すことが難しくなるなどの形で現れてきます。これを"メンタル・フォッグ"と呼んでいる方もいます。ある時間、立ち上がっていたり、真直ぐ座っていたりすることで血圧が乱れ、卒倒反射が生じてしまうと、これらの症状が現れてきます。また、読書や何かに集中した後などに疲労感が強くなる場合がありますが、これは、精神的作業への反応よりも、両手足の血管の膨張により、血液がそれらの部位に滞留することによるものであると考えられます。



●神経調節性低血圧症の診断は、どのように行われるのでしょうか?

神経調節性低血圧症は、通常の血圧や脈拍の検査では見つけることができません。その診断には長時間起立試験、より一般的なものとしては傾斜テーブル試験があり、この手法は世界中の病院や医療センターで採用されています。傾斜テーブル試験とは、テーブルに乗り直立状態に相当する70°の角度までテーブルを持ち上げ、そのときの脈拍や血圧の反応を詳細に測定する試験です。

これまで、傾斜テーブル試験は、頻発性失神の評価を目的として行われてきました。神経調節性調節障害を持つ方々は、失神をさけるために、脚を組んだり、もじもじしたり、または目眩がしたり疲れた時には、横になったり座ったりしています。しかし、傾斜テーブル試験では、そのような自然な防衛動作を行うことができないため、試験中に目眩、吐き気、または失神が生じます。疲労や倦怠感は、多くの場合、試験後、数日してから現れます。



●何が神経調節性低血圧症を引き起こすのでしょうか?

この問いに対する答えは、現在のところ十分に明らかになっていません。しかし、家族の中の複数の方に神経調節性低血圧症が見られるのは珍しいことではなく、多くの場合で遺伝的要因が疑われています。しかし、この病気を引き起こす遺伝子は、まだ特定されてはいません。

十分な水分や塩分を取っていない、長時間立ったままでいる、とても暑い場所にいるなどの大変厳しい状況に置かれることで、誰にでも神経調節性低血圧症の症状が表れる場合があります。低血圧の原因となるこの反射が、ごく初期の段階で現れる方々がいるということなのです。

神経調節性低血圧の方々に最もよく見られ、また治療の可能な問題の一つが、摂取食塩量の不足です。塩分には血管に水分を貯める働きがあり、正常な血圧を保つ作用があります。高血圧症や高血圧気味の方々に対しては、高塩分食は血圧の上昇をもたらし、心臓病や脳溢血の原因となるため、これまでの20-30年間、塩分摂取について悪い印象がもたれていました。そして、一般的に健康に良いこととして"減塩"が薦められてきました。しかし、そのことが全ての人に当てはまるわけではないことが、我々の知見から明らかになっています。

平均的な成人の血圧は120/70であり、140/90以上になると、高いとされています。神経調節性低血圧症を持つ人々では、安静時の血圧が広い範囲にわたっている場合や、心収縮時の血圧(上の数値)が90〜110の間、そして同様に安静時の血圧も高い場合が多く見られます。神経調節性低血圧を持つ方々にとって、減塩食は、健康を害し、これまで説明してきた疲労や目眩等の症状を増長させている可能性があります。20世紀初頭に行われた成人を調査対象とした研究では、短期間の減塩によって、疲労を感じたり、精神的に鈍くなることが報告されています。



●神経調節性低血圧症の治療法には、どのようなものがあるのでしょうか?

神経調節性低血圧症は、多くの場合、血圧を調節する薬に併せて、塩分と水分の摂取量を増やす治療が行われます。いくつかの薬には、腎臓にナトリウム等を蓄え、血圧異常の原因となるアドレナリンに対する反応を抑制する効果を持つものもあります。それに加えて、現在服用している薬に神経調節性低血圧症を悪化させるものが含まれていないか、主治医と相談することが重要です。

しかし、ここで強調しておきたいことは、この病気の治療には、我慢強さ、熱心さ、可能性のある薬や薬の組み合わせを試す積極性が必要であるということです。いくつかの薬には、血圧の上昇、ナトリウム濃度の上昇、カリウム濃度の低下、抑うつなど、重い副作用があり、治療は厳重な医師の管理下で行う必要があります。神経調節性低血圧症の患者の傾斜テーブル試験の結果を好転させる薬としては、フルドロコルチゾン(フロリネフ)、ベータブロッカーズ(例えばアテノロール)、ディソピラミド(ノルペース)、フルオキセチン(プロザック)、サルトラリン(ゾロフト)、エフェドリン、スュードエフェドリン、テオフィリン、メチルフェニデート(リタリン)、ミドリンがあります。あなたは、主治医とよく話し合い、あなたの病状に対して一番有効な組み合わせを決めて行かなければなりません。ですが、治療の第一段階は通常、水分摂取量を増やすことから始めます。このことは大変重要です。一日の中で定期的に水分を摂取することの重要性に気がついた方は、このことを真剣に考えていない方に比べて良くなっているように思えます。

これまで食塩摂取量が少なかった方には、食事に塩を振り食塩摂取量を増やすことを薦めています。この冊子の付録には、高塩分食のリストがついています(未翻訳のため英語の原文をご参照下さい)。また、いくつかの食品には食塩含有量が明記されており、簡単に塩分量を知ることができます。あまり症状が重くない方々の治療は、塩分と水分摂取量を増やすこと十分でしょう。薬を服用するようになっても、塩分と水分摂取量を増やすことは続けてください。

治療の効果を上げるには、塩分摂取量を増やすことに加えて、効率良く十分に水や水分を取らなければいけません(一日最低2リットル)。付録には、その他の神経調節性低血圧の治療に用いられる薬が紹介されています(未翻訳)。



●これらの治療法は、効果があるのでしょうか?

ここで、強調しておきたいのは、神経調節性低血圧の薬は、たとえ効果があったとしても、それは完治ではないということです。むしろ、これらの薬は症状をコントロールするのに役立つといえ、薬の服用を止めて、塩分摂取を減らすと、再び症状は頻繁に現れるようになります。

この症状を持つ青年期の男女や成人の多くは、(大勢の前で発表をしたり、感謝祭に人々を招いたり、暑い日に会議に間に合うように駆け込んだり、水分摂取を怠たるなど)忙しかったりストレスが強くなると、症状が現れたり、悪化することもあります。また、多くの女性で月経の始まるころに症状の悪化が見られます。

長期にわたって病気の経過を観察した研究は多くありませんし、平均的治療期間についても十分な報告がありません。また、残念なことですが、神経調節性低血圧症の薬を同じように処方しても、傾斜テーブル試験で症状の改善が見られない方や薬に耐えられない方もいます。これらことは、この病気について更なる研究が必要だということを示しています。また、多くの女性で妊娠中に症状が軽快する傾向が見られ、多くの方がその時が今までで一番楽であったと言っています。その理由は、妊娠により血液の量が増えたからではないかと考えられます。



●症状を軽快させるには、他にどのようなことをすれば良いのでしょうか?

実際に症状が起こるような状況を避けることです。例えば、行列を避け人の少ない時間に買い物をする、湯の温度をいつもより少し下げシャワーや風呂は短時間で済ます、サウナや熱い風呂や暑いビーチで横なったりしないようにする、暑い場所や暑い日に長い時間立っていないようにする、立っている時には脚の力を抜き、体重を左右の脚に交互にかけるようにする、血管を膨張させ循環系から血液を奪ってしまうため、アルコールの摂取を控えるなどです。神経調節性低血圧症を持つほとんど方でアルコールに弱い傾向が見られます。また、カフェイン(それがソフトドリンクに含まれるカフェインであっても)は、人によって正反対の効果が表れるため、あなたにとってカフェインは症状を悪化させてしまうものなのか、症状を改善するものなのか試してみる必要があります。

いくつかの姿勢や身体的な動きは、長時間座り続けている時の血圧を上げるのに有効です。脚の筋肉を収縮させることにより心臓へ血液を送り出し、腹部の圧迫することにより腸に滞っている血液の量を減少させることができます。アムステルダムのウォーター・ウィリング博士らは、これらの小さな変化が重要であり、たとえ血圧の上昇が僅かであっても脳への血流を増やすには有効であると強調しています。また、多くの患者は、知らず知らずの内に上記の効果を持つ次のような姿勢をとっています。

・ 脚を交差して立つ
・ 屈伸をする
・ 片足を椅子に乗せて立つ
・ 腰から前方にかがむ(ショッピングカートの上にもたれるというように)
・ 膝を胸に引き寄せて座る
・ 低い椅子に座る
・ 膝に手をおいて前屈みで座る

これらの中には地味なものもあります。キャンプ用の椅子のような低い椅子に座ることは、お腹よりも脚の方が上にくるため、腸に滞留する血液量を減らす効果があります。同様の理由で、活発に足の筋肉を収縮させないかぎり血液の滞留が妨げないため、足がぶらぶらするような高い椅子に座らないようにすることも有効です。ある若い女性が、低い脚置きに脚を置いて座ると、症状がでることなく長い間座っていられることを発見しました。これは通常の姿勢に比べて、脚の筋肉がより収縮し、腹部もより圧迫されるためだと思われます。また、オランダのグループが推奨する方法もあります。それは、ベッドの頭部を僅か10°〜15°上げるもので、水分が夜中に尿として排出されず体内に留める効果を持っています。着心地が悪いと感じる方もいると思いますが、ハイウエストのストッキングまたはウエストの高いぴったりしたズボン(膝丈のソックスは効果がありません)は、脚に過剰な血液が貯まることを防ぎ、また腹部を圧迫する効果(腸に過剰な血液が滞留することを防ぐ効果)もあります。

NMHに対抗する健康を取り戻すには、エクササイズが重要です。NMHに対する効果的な治療法が見つかっていない現在、運動は症状を悪化させることがあるため、最初は慎重に行わなければいけません。主治医と相談し、運動が可能であると考えられたとき、始めるようにしてください。目眩を起こさないような運動を選び、最初はほんの短い時間から始め、だんだんと長くしていってください。ただし無理をしてはいけません。例えば、数年間病気だった女の子は、2種類の薬を服用することで快方に向かっていました。彼女は、踏車を始めましたが、目眩を起こしたため、もたれてできる自転車こぎ運動に切り替えました。最初は1日に僅か2分間で始め、徐々に時間を長くして行き、3ヶ月後には一週間に30分の運動を3回できるようになりました。ここで、運動をする前には徐々に体を暖め、運動後は徐々に体を冷ましていくということを忘れてはないでください。

その他の病気にも注意を払うことは、NMHの治療の効果を十分に上げるためにも重要です。特に、たとえ軽くても喘息やアレルギー症を起こさないようにすることは、患者の病状を悪化させないためにも重要です。下腹部の痛みを訴える女性の子宮内膜症は、副鼻腔炎、不安障害、様々なものによる感染など治療が必要となる様々な病態を引き起こし、NMHを悪化させます。

タンパク質(最も一般的なものは牛乳のタンパク質)に対するアレルギーは、NMHを持つ方々に一般的に見られ、その改善には、悪影響のある食物を厳密に避ける必要があることが同僚の一人、ケビン・J・ケリー医師(現在、フィラデルフィア、聖クリストファー病院)によって報告されています。このことは、勝手な食事療法は大変危険であることを示しており、これらのことは事前に主治医と良く話しあう必要があります。

最後に、治療で最も重要なのは水分の摂取量を増やすことであるということをもう一度強調しておきます。毎日2時間毎に水分をとるように努力した方々は、水分摂取量を増やすことに無関心であった方々と比べて、良い状態にあります。また、長時間の睡眠(12時間以上)は、理想とする基本的な水分摂取の機会を妨げるということを念頭においてください。


翻訳:Co-Cure-Japan, Jp-Care




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