起立性調節障害

アメリカCFIDS協会

サイト:http://www.cfids.org/about-cfids/orthostatic-intolerance.asp
原題:Orthostatic intolerance (OI)
著者:The CFIDS Association of America



 起立性調節障害(Orthostatic Intolerance: OI)とは、立っているときや、座っていても直立姿勢をとることで症状が表れる病気[1]で、大人と子供の慢性疲労免疫不全症候群においても見られる病気です[2-7]。

 OIとCFIDSの関連は、1995年にJohns Hopkins大学のRoweら[8]によって報告され、その研究では、96%のCFIDS患者に神経調節性低血圧(Neurally Mediated Hypotension: NMH)が見られていました。それ以来、専門家はCFIDSにおけるOIの問題について幅広く研究を続けています。ここで、NMHとは起立性調節障害の一種で、現在では多くのCFIDS患者(最大で97%の報告がある)がOIを持っていることが明らかになっており、またそれは小児CFIDSで特に重要な問題[7-10]であると考えられています。


●OIの種類

 OIにはいろいろなものが含まれますが、そのうちの2つ、NMHと体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome: POTS)、とCFIDSの関連についてこれまで研究が行われてきました。

 NMHとは、立ち上ることによって心臓収縮時の血圧が急激に低下(少なくとも20-25mmHg)する病気です。この血圧の低下は、症状の悪化に伴って、また症状の悪化に先立って生じます[2]。

 POTSとは、立ち上がって10分の間に、一分間の心拍数(脈拍)の急激な増加(平常時の値から30以上)、またこの10分の間に120bpm以上の大きな脈拍数の増加(訳者注:bpmとは一分間あたりの心拍数の意味。beats per minuteの頭文字をとったもの)が現れる病気です[1]。また、POTSは、慢性起立性調節障害(Chronic Orthostatic Intolerance: COI)としても知られています[11]。

 NMHとPOTSでは、血圧と心拍数の変化と同時に、ふらふら感、めまい、吐き気、疲労、しびれ、呼吸-嚥下障害、頭痛、視覚障害、発汗、蒼白などの起立性の症状群を伴います。多くの患者で、足が青くなったり、むくみが見られ、下半身に血液が滞留していることを示唆しています[10]。


●検査

 ほとんどの医師は、起立性低血圧(Orthostatic Hypotension: OH)をよく知っています。OHは、立ち上がるとすぐに倒れ込んだり失神したりする病気で、伏臥時と起立時の血圧を調べる、簡単な検査で診断をすることができます。

 OHであるかどうかは、通常立ち上がってから最初の3分間で判断できますが[12]、NMHやPOTSを持つCFIDS患者では、起立性調節障害の症状が遅れて現れる場合が多く見られます[13, 14]。立ち上がってから何分間も血圧や心拍数に変化が見られないため、これらを診断するには、標準的な短時間の起立性低血圧の検査手法は適当でないと考えられます。CFS患者へ傾斜テーブル試験を適用することで、倒れこむほどではなくとも、血圧や心拍数の変化や起立性の症状群を調べるには有効です。一般に、心臓科や病院の外来患者の最終的な診断には、頭を上にした傾斜テーブル試験(Head-Up Tilt table test: HUT)[15]が用いられます。

 HUTを行うことでNMHとPOTSの症状が現れるため、患者は検査の後、または検査中に気分が悪くなることがあり、それらの症状が長引くのを抑える目的で試験後には生理食塩水の注射(IV saline)が行われます。

 David Streeten医師は、2000.9に亡くなるまで循環器系の研究に数十年間携わり、David S.Bell医師とも共同研究を行っていました。彼は、HUTよりも、長時間起立試験の方が患者の症状や状態をより的確に表すとして、長時間起立試験を採用していました[16]。まず患者は、横になって30分間安静にし、その後でゆっくりと起き上がり、60分間または症状が重くなってしまうまでじっとしています。この試験の間、数分おきに血圧と心拍数の測定を行います。ここで大切なことは、心拍数が極端に少なくなる等の試験中に生じうる深刻な症状に備えて、長時間起立試験またはHUTは、医師の厳密な管理下で行う必要があるということです。


●病態生理学

 NMHやPOTSの病因として候補に挙げられているものは、またCFIDSとも関連を持っています。病因は特定されていませんが、これらの病気は全て、脳や心臓へ戻る血液の量が減少する、血液循環不全を引き起こします。患者の体の総血液量が低下する(脱水状態や出血に近い状態)[17-19]、または手足の先に過剰に血液がたまってしまう、またはその両方が生じているのではないかと考えられています。

 健康な人の場合、起立時には重力によって約750mlの血液が両足や腹部へ下がり、脳への血流量が低下します[20]。POTSの患者では、起立時に脳への血流量がそれよりも大きく減少します[21]。青年を対象にした研究によると、伏臥時と起立時にふくらはぎの周りで測定をした結果、両脚に貯まっている血液の量はCFIDS患者が最も多く、その次はPOTS患者でした[7]。

 起立時に両手足から心臓へ向かう血流量が少ないと、脳は化学物質を放出し、上半身への血流を増加させようと心拍数と血圧を変化させます。脳が過剰に反応すると、NMHやPOTS患者に見られるように、心拍数が速くなったり(頻脈)、血圧が低下したり(低血圧)、起立性の症状群(上述の"OIの種類"参照)が現れることになります。CFIDS患者には、これらNMHまたはPOTSの症状が見られますが、多くの方でこの両方を持っています。

 これまでの研究で、CFIDS患者におけるいくつかの生理的な異常が明らかとなってきました。このことは、NMHやPOTSなどの自律神経系の問題とも矛盾するものではありません。CFIDSを持つ青年と大人は、休息中でも、座ったままの健康な対象群に比べ心拍数が高いという結果が5件報告されています[5,7,9,22,23]。一方で、変化が見られなかったという研究も2件あります[2,24]。また、傾斜テーブル試験により心拍数の大きな増加が見られること分かっており、この知見はPOTS患者のものと一致しています[5,7,23]。

 さらに、3件の研究(成人を対象としたもの1件[5]、青年を対象としたもの2件[6,11])により、CFS患者の心拍数は、対象群と比較して大きく低下することが明らかとなりました。このことは、起立時のストレスを受けたときに心拍数が適正な変化をせず、多くのCFS患者では心拍数の調節能力が低下することを意味しており、自律神経系の機能が損なわれていることを示唆しています[11]。この結果とは対照的に、成人のCFSに関する研究で、心拍数の変化に対象群との差が認められなかったという報告もあります[25]。

 Dr.Streeten, Dr.Bellと彼らの共同研究者達は、軍隊で使用されている膨らんでいる対衝撃用ズボン(MASTパンツ)を履くことで、数分間立ち上がっていた後にCFIDS患者に見られる起立性の症状群が好転することを見出しました[16]。残念ながらMASTパンツは、着心地のいいものでもなく、広く受け入れられる性質のものではありませんが、CFIDS患者に圧迫する治療が有効であることを示しています。また、CFIDSにおけるPOTSの原因は、総血液量の低下よりも血液の滞留に問題があるという考えを強く支持する結果を与えています。


●治療

 CFIDSにおける、POTSとNMHの効果的な治療法は、患者によって異なります。一般的に、POTSやNMHの治療法により、いくつかの症状が大きく軽減しても、CFIDSによる症状と完全に分けることはできません。

 治療の第一歩は、水分や塩分摂取量を増加させる(一日の塩分摂取量は最大10-15gまで)、ほんの数度だけ寝るときの頭の角度を上向きにする、体を圧迫するような洋服(靴下、ガードル、腹巻など)を着る、OIを悪化させる原因(長蛇の列に並ぶ、暑い場所で長時間過す、過食など)の取り扱い方、避け方を学ぶなどの医学的治療法以外の手法から始められます。

 医師はそれらを試した後で、低血液量の改善のためフルドロコルチゾール(フロリネフ)、血管収縮神経系の薬(メチルフェニデート(リタリン)とデキシトロアンフェタミン(デキセドリン)と血液の滞留の改善のためミドドリン(プロアマチン)を含む)、場合によってはエピネフリンとノルエピネフリンの放出やその効果を抑えるための薬などによる治療を始めるでしょう。選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRIs)は、POTS患者の何例かで効果が見られています、NMHに起因して頻繁に失神を起こす患者に対してはパロキセチン(パキシル)が効果的であるという任意抽出された患者群による報告もあります[26]。

 任意抽出群のPOTS治療では効果が見られていませんが、他の任意抽出されたNMHにより頻繁に失神を起こす患者を対象とした研究では、アテノロール、ミドドリン、エナラプリルの有効性が示されています[27]。しかし、これらの薬がCFIDSに効果があるかどうかはよく分かっていません。生理食塩水は、症状を軽減させ、特にHUTの後や症状が急激に悪化した場合などに有効です。失神の一般的な治療薬である ベータブロッカーやクロニダインは、POTSにはあまり効果がないであろうと考えられ、異なった病因を持つ卒倒やPOTSに対するものであろうと考えられています。


●結言

 どの程度起立性調節障害がCFIDSに含まれているのかを議論するには更なる研究が必要です。CFIDSにOIの症状が見られることは、これまでの研究で明らかになっていますが、しかし、その度合い、役割、原因などについては、依然、今後の研究課題として残されています。


●その他の情報源

○American Autonomic Society Department of Neurology Mayo Clinic
200 First Street SW Rochester MN 55905 Phone: 507-284-3375 Fax: 507-284-3133

○National Dysautonomia Research Foundation
PO Box 211153 Eagan, MN 55121-2553 Phone: 651-267-0525 Fax: 651-267-0524

○National Institute on Neurological Disorders and Stroke National Institutes of Health Bethesda, MD 20892

○Vanderbilt University Autonomic Dysfunction Center 1211 22nd Ave S Nashville, TN 37232 Phone: 615-322-5000


●参考文献

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2. Bou-Holaigah I, Rowe PC, Kan J, Calkins H. The relationship between neurally mediated hypotension and the chronic fatigue syndrome. JAMA. 1995;274:961-7.
3. Calkins H, Rowe PC. Relationship Between Chronic Fatigue Syndrome and Neurally Mediated Hypotension. Cardiol Rev. 1998;6:125-134.
4. Schondorf R, Freeman R. The importance of orthostatic intolerance in the chronic fatigue syndrome. Am J Med Sci. 1999;317:117-23.
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7. Stewart JM, Gewitz MH, Weldon A, Arlievsky N, Li K, Munoz J. Orthostatic intolerance in adolescent chronic fatigue syndrome. Pediatrics. 1999;103:116-21.
8. Rowe PC, Bou-Holaigah I, Kan JS, Calkins H. Is neurally mediated hypotension an unrecognised cause of chronic fatigue? Lancet. 1995;345:623-4.
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10. Stewart JM, Gewitz MH, Weldon A, Munoz J. Patterns of orthostatic intolerance: the orthostatic tachycardia syndrome and adolescent chronic fatigue. J Pediatr. 1999;135:218-25.
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原文:
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翻訳:Co-Cure-Japan, Jp-Care




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